CULTURE

氷屋のごとく消えたサーフィンカメラマン


ブログ28−1

ノースショアの波がいいと、「浜にズラッと三脚が並ぶ。」大波にチャージするサーファーたちと同じ様に、カメラマンたちもノースショアの風景にブレンドする人たちです。



鶏が先か卵が先か。カメラマンが先かサーファーが先か。その関係は深いもの。サーファーたちがチャージするからカメラマンが集まると言うだけではなく、カメラが並ぶからサーファーが写真に押さえてもらおうと張り切る。

私が初めてノースショアでチャージをすると決めた時(トップボーダーだった頃)はそんな関係が成り立っていました。ハワイへの旅をする前に日本のスポンサーに言われた言葉は「写真を残してきてね」でした。実際に、初めてノースショアにチャージしに来た冬、自分をアピールするために、当時有名だったブライアン・ビールマンさんに挨拶をしたのを覚えています。「私のスポンサーが写真を欲しがっているので撮ってください」と(笑)。

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写真 / サーファーとカメラマンがまさに共存していた時代



世界の経済が安定していた80年代は、取った写真が広告として使われるケースが多く、サーフフォトグラファーという仕事が、『カッコよく』確率していました。カメラマンの多くが美人の女性と一緒になり、所帯を構えたのもこの時期です。

80年代に、カメラマンが『カッコよかった』理由は、経済的なことだけではありません。当時、オートフォーカスがなかったので、皆がマニュアルで写真を撮っていた。あのスピード感溢れるサーフィンの瞬間をマニュアルで押させていたのです!しかも、デジタルではなく、フィルムの時代です。ネガティブは一般の人が使ったフィルムですが、広告や雑誌に対応できるのはポジティブ。一枚の写真を焼くのにコストが掛かった。ピンボケの写真ばかりでは、お金ばかりかかり、売れないので、集中力が必要でした、今以上に。想像してみてください。灼熱の太陽が照りつける中、数時間も立ちづくめで、サーフィンの瞬間を撮ることに集中する。。芸術家というより肉体労働のおっちゃんです。カッコ良いというより、尊敬って言った方が合ってるのかなぁ、彼らを表現するには。

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写真 / エアーマットを抱えて水中写真に挑む80年代のカメラマン・佐藤伝次郎氏


90年代。まだポジティブのフィルムを使っていた時代です。が、オートフォーカスのカメラが出現。突然、カメラマンの数が増える様になり、カメラマンたちにライバルが増えた。サーフブランドや雑誌社に、カメラマンの方から営業をかけてゆく。それまでは、雑誌や広告会社の方が、カメラマンさまさまに、お願いして写真を譲ってもらうという体制だったのが、一気に逆転。人付き合いの技術もカメラマンに要求される様になったのです。

彼らに劇的なダメージを与えたのは、デジタル化でした。さらにカメラマンの数が増えて行きました。そんな中、生きのこるためには、営業のスピード性が必要。浜で撮りながら、良い写真をすでに選別しておいて、家に帰るやいなや、写真をダウンロードし、あちらこちらのブランド会社に送る。オートフォーカスにデジタル化で、数秒の間に何十枚も撮れる様になると、隣にいたカメラマンと同じ様な写真になるから、誰が先にクライアントに見せるかが写真を売る鍵となりました。

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写真 / 良くも悪しくも誰でも気軽にサーフィン写真が撮れる様になった



そしてサーフィンを撮るカメラマンに痛手を与えた最後の一撃は、フリーダウンロード写真の配布でした。世界最高峰のサーフィンツアーASP(現在はWSL)が、お抱えのカメラマンに全てを撮らせ、タダで世界中の人に配る(ダウンロード無料)様になったのです。そしてもちろんインターネットの普及です。雑誌がなくなってくると、カメラマンの仕事はますます減った。アイフォン(スマホ)のカメラのアッパーカットも痛かった。だれもが手軽に綺麗な写真を撮れる様になると、プロはもう必要ない。

サーフィンフォトグラファーは、まさに、冷蔵庫が出来た時に消えた氷屋さん状態。過去の人となったのです。

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写真 / 現在は趣味的に(気が向いたときだけ)浜に立つ元(?)カメラマンの我が旦那

で、うちの旦那。

(元?サーフィンフォトグラファー)次女のサリーがサーフィンに夢中になっているので、今シーズン、久しぶりに浜に三脚を立てたんです。先日、8フィートの大波がパイプで割れている日も。すると偶然にも昔のヒーロー的な存在だったカメラマンたちが、同じ様に三脚を並べていたのです!何年も会ってないのに、80年代のあの日の様に、隣同士、三脚を並べて、写真を撮りながら、世間話。昔が蘇ったかの様に一瞬思えたそうなんですが、話の内容がなんとも嘆かわしかった。「俺、家のローン払えなくて、結局奥さんに逃げられた」とか、健康保険の掛け金が払えなくて虫歯を治療できずに抜いちゃって、歯なしになってたとか。。。。。そう言いつつ、みんな笑っていたっていうのが、唯一の救い。

私も笑いながら、話の幕を閉じたいと思います。「進化したカメラと共に消えたのは捉えたはずの美人の奥さん」座布団一枚!(笑)



それではまた次回まで。

アローハ!



記事: エミコ•コーヘン
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